各務支考の句・ある日ある時
1月号 | 正月の月夜はうれし見はせねど | 享保16年正月の月夜と言われ心浮き立つも 見る気力すら無かったのか…この年2月支考67歳で世を去る |
〃 | 大根はこなたに雪のいぶき山 | 雪を頂いた伊吹山を背景に大根の袈掛 大いなる美濃平野 |
〃 | 若菜摘手や袖縁の紅の色 | 若菜の緑に袖口の紅色…それだけで一幅の絵く 雅な姫とも違う、成人に達せぬ童乙女の柔らかな香 |
〃 | 念仏と豆腐たふとし老いの春 | さて、支考何才の春であろうか?老いを突き詰めれば 信仰と食…うれしさも中くらいなりおらだ春…も近い |
2月号 | 鶯の蹴立によるか梅の雪 | 鶯が飛び立ったためか、梅の雪はらりと落ちる。二重季語はダメなんて! |
〃 | 是までか是までかとてはるのゆき | 是でおわりかな~と思われつつも又もや雪とは言え ほんのり春の色。 |
〃 | しら玉や梅のつぼみも一包ミ | 春は別れの季節…近世なら尚、惜別の心計り知れず はなむけに梅の一枝 |
〃 | はなのさく木はいそがしき二月哉 | はなのさく・いそがしき.と平仮名散らし 春の目覚めを感じる句 |
3月号 | 2004年令和5年「獅子吼」3月号に支考俳句掲載なし。獅子門の会員各位お気付きだろうか… | 支考の句何処と尋ぬ春の風 |
〃 | うき恋にたえでや猫の盗喰 | もし「たえてや」ならばこの猫いじらしくも滑稽 「たえでや」は支考目線の滑稽さ… |
〃 | うぐいすの合羽やほしき雨の音 | 春の雨音が聞こえて来そうな句。美声も披露できず せめて合羽でも…温かな情を醸す春のひとコマ |
〃 | 早わらびの何かは握る袖の内 | 何かを握りしめるような早蕨の姿、ギュッと握った物は? ホラねっ!やっぱり袖の中のそれでした |
4月号 | 駒とめてみたきは花の御嵩哉 | 初めて俳人国騅にあった時の挨拶句とは言え 駒と桜のほのぼのとした風景が無に浮かぶ句では。。。 |
〃 | 九牛が毛桃の花や稲荷前 | 突如9頭の牛が出てびっくり!が、九牛云々は「毛桃」の 枕詞的なもの?稲荷前にも句が飛び出す |
〃 | 小田の二字首にかけてや鳴蛙 | 初めは?鳴く蛙の姿が浮かんでナ~ルほど… 手をついて歌申しあぐる蛙かな…と並びそうだ |
〃 | 媒(なかうど)は先へ行きけり弥生山 | 近隣の嫁ぎ先へ歩む花嫁行列。急く仲人に 文欽高島田は追いつけず…過ぎし弥生 |
5月号 | 筍の露あかつきの山寒し | 暁に竹藪に立てば、露しげくうそ寒い静けさが沁みる |
〃 | 鶯をいなせて竹の落葉かな | いなせ~とは?春から夏にかけてザワザワト竹落葉 旅の哀歓すら感じる |
〃 | 夏はまだ浅黄に啼や松の鹿 | 中央の「に」、いくつかの意味を含んでリズムを整え 初夏に子鹿の啼く声を添える |
〃 | 一声や空に花さくほとゝぎす | 時鳥の一声、それは空いっぱいに咲いた花だ! 聴覚が視覚を覚ます大花火の一句一句 |
6月号 | 昼がほに敷寝の袖や貝遊び | 敷寝の袖…はて?砂浜に袖汚しつつ、昼顔の傍、美なる貝を手にした? |
〃 | ゆりの花生ければあちらむきたがる | 全く言い得て妙である。恣意的に動けば それを見越しているかのようにプイと横向く、可愛さもある |
〃 | 世の耳を聞かでたふとし時鳥 | 馬耳東風と時鳥の一声 悟りの境地を象徴するかのように… |
〃 | 五月雨の夕日や見せて出雲崎 | 五月雨の夕日で…旅先での夕餉の一時が イメージされる。支考の笑顔が見える |
7月号 | ちり込めて昼寝を埋む笹葉哉 | 笹の葉に埋められての昼寝…そこに蛇も蟻もないのが俳句だろうか |
〃 | 関の灯のあなたこなたを夕涼み | 関は下関、美濃からは遥かに遠い関門海峡を眺めつつの夕涼み |
〃 | 村雨の雫や木々に飛ぶほたる | 雨湿りの間にゆらりと飛ぶ蛍、乱舞する蛍…幻想的な夜の一幕 |
〃 | 夕晴の雲や黄色に瓜の花 | 夏の夕刻…空の黄色と大地の恵み相照らし、生命の謳歌… |
8月号 | 蜻蛉のあたまにとまる日向かな | 頭に止まる蜻蛉を止まるがままにしておく長閑な昼日向 |
tr>〃 | 三味線に秋まだ若し涼み舟 | 秋またっぷりなだ若し…が不愉快な残暑を打ち消し その語自体に夏の涼を感じる |
<〃 | 風鈴や秋を触行(ふれゆく)市の中 | 風鈴売りの音が暑さを払い涼しさを来す、秋遠からず |
〃 | 仰けに寝てみれや天の川 | あおむけに、次は岐阜弁で「~mirya-」ほれ、あおむけにねてみィ~と |
9月 | 帆にあまる風や松吹庭の秋 | 帆にあまるで、たっぷりな豊かな風が松の庭に吹く様が見えるようだ |
〃 | 朝顔やゆふべの人のなき便 | 昨夜の人が亡くなったという便り、儚さは朝顔の命。 朝顔やかの人の逝く便り哉 |
〃 | きりぎりす啼せて寝たし籠枕 | 江戸に5つの風流あり。雪見、花見、月見、菊見、虫聞き 枕にきりぎりすの啼くを入れる…支考的発想か |
〃 | 名月を耳に聞夜ぞ竹の雨 | 月を耳で聞く、竹に降る雨音もそれなりに… 大雨小雨風情を感じさせる |
10月号 | 茸狩といふて出ばや旅姿 | 茸狩や空手で戻る騒ぎかな?の句が浮かぶ が支考は装うばかり哉 |
〃 | <渋谷の柿のしぶしぶわかれ哉 | 東京渋谷ではなく福井しぶたに 別離が 渋柿に掛けられ気分上々 |
〃 | 船超してとべやどなたも秋の暮 | 福井は三国新保での事。俳句仲間が船で往来 あの人この人の秋の暮 |
〃 | 関守はゆるさぬ鳫のそら音かな | 百人一首を思い出す。雅と俳諧の粋な出逢い 支考の智恵もまた俳諧か |
11月号 | 新酒にはよき肴あり松の月 | 松にかかる月を肴に見立てたのか 北陸高岡の美味しい物との三拍子かも… |
〃 | 夜にめでゝ雁も平砂の旅寝かな | 三国にて「平砂落雁」に因んで詠まれたとか とは言え旅寝での旅情に近そうだ |
〃 | 城外の鐘きこゆらむもみぢやま | 中唐の詩人張継作を知る人ぞ知る…支考は 俳句の特質、俳句の短所?ちょっと考えてみる |
〃 | 行くものは秋のごとくか足羽川 | 足羽川の古称「あすは川」を出すための長い枕? やはり逝くものは斯くの如きか…に軍配か? |
12月号 | 茶の花や是も玄旨の植残し | 玄旨とは武将にして茶道を究めた細川藤孝 茶の花から故人を偲ぶのも道 |
〃 | 霜月に節句もあらば水僊花 | もし霜月に節句があれば、水仙こそが節句の花だろう 寒空にふっと薫る水仙に慰められることもあり |
〃 | 三日月も似合に凄し冬の雲 | 古語の「凄し」は①もの寂しい②気味が悪いの意 冬の雲と三日月が醸す荒涼たる景色に①と②の意味が重なる |
〃 | 水に巣の鴨方ならば一夜寝ん | 読み始めは、暗号のようなたが 水・鳥・巣…挨拶句ながら冬を感じさせる |